自分にも、周りの人にも嘘のない生き方をしたいと思っているアナタへ
「ヴィーガン」「グルテンフリー」
こうした言葉を聞くと、どこか壁があってストイックで、自分とは少し遠い話のように感じないだろうか?
札幌市内で植物性素材と北海道産米粉を使用した菓子店「VAKE」を営む宮原さんも、かつてはアナタと一緒だった。

埼玉県出身。動物福祉の観点からヴィーガンというライフスタイルを選択。
札幌を拠点としながら、「自分に選んであげたい、心と体にやさしいおやつ」をコンセプトに、
北海道産米粉を使用したヴィーガンスイーツを展開。
しかし、今はヴィーガンという生き方を自ら納得して選んでいる。
宮原さんの言う「ヴィーガンという生き方」とは何なのか。
どうして扱いの難しい米粉で、道産にこだわるのか。
そして、「気づけば自分のやりたいことができていた」と語る理由とは。
浮かび上がってきたのは、幼少の記憶と自分に嘘をつかない選択の積み重ねだった。
誰にも押し付けない。マフィン屋さんの「ヴィーガン」との心地よい距離感
「ヴィーガン」とは、肉や魚介類だけでなく、乳製品や卵などの動物由来の食品も避け、植物性食品を中心に選ぶライフスタイルのこと。
そこに、小麦などに含まれるタンパク質の一種・グルテンを避ける食事スタイル「グルテンフリー」といった言葉が並ぶと、どこかストイックで難しそうな印象を持つ人も少なくないだろう。

北海道特産のハスカップやヴィーガンクリームチーズなど多様なフレーバーで展開。
言葉自体は少しずつ身近になってきた。
しかし、中には過激な情報に触れて「なんだか怖そう」「自分とは遠い世界」と身構えてしまう方もいるかもしれない。
だが、VAKEを営む宮原さんのスタンスは、そんなイメージとは真逆をいくものだった。
「お店について分かりやすく言ったら『ヴィーガン』なんですけど、別にそれを広めたいという気持ちでやってるわけじゃ全然なくて」
穏やかな笑顔でそう語る宮原さん自身も、かつては「よくわからないもの」として身構えていた一人だ。
「私がベジタリアンやヴィーガンになったきっかけは、パートナーが『なりたい』って言ったからなんです。でも当時は知識がなかったし、何を作ればいいかもわからなかったので2年くらい断り続けてました」
決して自分発信ではなかった。
「友人がシェアしてくれる動物性食品や製品の背景を見るうちに、なんか納得したんですよね。腑に落ちたというか」
はじめからすんなりと受け入れたわけではない。
「なので時間かかりましたね、腑に落ちるまで。今振り返っても、自分が納得していなかったらやらないし、誰かに押し付けられてやるものでもないですから」
時間をかけて学び、思考を重ねた末に選んだ道だった。
そんな背景があるからこそ、自身が作るお菓子やお店の在り方もフラットだ。

「ヴィーガンの私が作るからこういうものになるだけで、何ならヴィーガンという言葉も使いたくないくらいなんです」
そして、柔らかい雰囲気の中に力強さを秘めながら、こう言い切った。
「ヴィーガンという生き方を提案する気もないんです。私は思考を売っているのではなくて、マフィンを売っているので」
開店一ヶ月前の決断。VAKEのラストピース「米粉」が繋ぐ憧れの北海道
コロナ禍真っ只中で北海道へと移住してきた宮原さん。
転機となったのは、パートナーからの一言だった。
「知識があるのに勿体ない。(ヴィーガンという)バックグラウンドがあるんだから、何か発信してみたら」
その言葉に背中を押され、ヴィーガン料理のオンライン教室をスタート。
さらに、学校のバザーで手作りマフィンを出品した際、「お店されないんですか」と声をかけられた。
「『お店か……』と思って。でも、私は少し完璧主義なところもあって、そういう意味では自分一人で細部までこだわれるお店っていう形の方が自分に合ってるかもなって思ったんですよね」

「体に入るものだから、できるだけ安全なものを」
そして、客として通っていたお気に入りの菓子店へ「キッチンをお借りできないか」と相談したところ、これを快く承諾していただいた。
「そうしてお借りすることになったキッチンが、たまたま『小麦粉NG』だったんです」
アレルギーを持つ子どもでも安心して食べられるお菓子作りをしているお店。
この偶然の制約が、VAKEの新たな価値を生み出すことに。
「はじめは一般的なスーパーでも買える米粉を使っていて。やっぱり使いやすいんですよね」
しかし、開店1ヶ月前になって「せっかくなら北海道の米粉を使いたい」という想いが溢れ出し、道産米粉使用というコンセプトの追加を決める。
「本当に開店できるのかなと思うくらい、試行錯誤の連続で難しかったですね」
米粉はメーカーによって吸水率が大きく異なり、お菓子作りにおいて非常に難しいところがある素材だ。
それでも諦めなかった。
「微々たるものですけど、北海道に何か還元していく、循環していく流れも作りたいなと思って。今は北海道の企業さんから(道産米粉を)仕入れさせていただいてます」

「アレルギーについては健康に関わることなので、かなり慎重に扱いたいです。詳細については、是非お気軽にお問い合わせください」
こうして生まれたVAKEのマフィン。
一口食べると、そのしっとりとした食感と満足感に驚かされる。
事前に知らなければ、これがヴィーガンやグルテンフリーのお菓子だとは気づかないほど。
「『体にいいもの』って、どこか薄味で物足りないイメージがありますよね」
ここでもフラットな宮原さんのスタンスを感じる。
「でも私は『体に良さそう』というイメージだけで終わらせたくなくて。もちろん好みはありますけど、『体に良い』と『美味しい』を両立させたいと思っています」
パートナーの言葉から始まり、様々な出会いと偶然が重なって形となったVAKEのお菓子。
その一口の美味しさの背景には、宮原さんの人や地域に対する誠実な想いが詰まっていた。
「ヘルシーじゃない」壊されたイメージとインクルーシブな生き方の選択
かつて、海外を転々とする生活を送っていた宮原さん。
「アメリカのフロリダへ行って、その後はデンマークのコペンハーゲン。しばらく日本に帰ってきてからはボストン、そしてオーストラリアで1年半ほど暮らして、北海道に移住してきました」
こうして歩みを紐解くと、その土地ごとの暮らしが、今の宮原さんの佇まいやVAKEの在り方へと繋がっていた。

「すぐそばにビーチがあって、子どもも裸足でビーチを駆け回ってました」
「日本にいる頃にヴィーガンになったのですが、すぐにアメリカへ引越すことになって」
そこで出会ったのが、現地のオープンなヴィーガンカルチャーだった。
「地元のヴィーガン団体が開催するマルシェに行くと、日本にはないようなヴィーガンミートやヴィーガンチーズが普通に買えるんです。一般的なスーパーでも」
誰かの家に集まってパーティーを開くときも、ヴィーガンチーズひとつあれば、誰もが気兼ねなく同じテーブルを囲むことができる。
それが特別なことではなく、日常の中にある「ごく普通のこと」だった。
「『これ毎日食べたら、逆に体に悪いんじゃ』と思うくらいジャンクなものもたくさんあって。そこで『ヴィーガン=ヘルシー』ではないんだとイメージを壊されましたね」
そう笑う宮原さんだが、日本と海外の違いについて、こう言葉を続ける。
「一番大きいのは、『どこを出発点にしているか』っていう部分だと思うんです」
そして、VAKEの根底に流れるコアについて、静かに、力強く語ってくれた。

しかし、「人や地球や動物にできる限りやさしくありたい」という想いから、プラスチック個包装は使用せず紙袋を採用。
「ヴィーガンの理念は『動物福祉(Animal Welfare)』という考え方から始まっています。それは可能な限り動物を搾取しない生活をするという『生き方』なんです」
ヴィーガンとは、単なる食事制限のノウハウではなく、自分自身の「生き方の選択」だった。
「例えば革のバッグを使わないとか、リアルファーのものを着ないとか、動物実験を行っている化粧品は避けるといった、自分自身の生き方なんです」
自分が納得して選んだ「生き方」だからこそ、宮原さんはそれを他人に押し付けることはしない。
ヴィーガンという生き方を選んだ「私」がお菓子を作る場所、それが「VAKE」なのだ。
「娘は北海道に来て、アイスクリームを食べたくて。『自分で選んでいいよ』と伝えたら、『じゃあ私は食べます』って」
先ほどの力強い眼差しから一転、柔らかく温かい母親の笑顔に戻っていた。
蘇る幼少の記憶。お客様が気づかせてくれたVAKEの現在地
自分が納得できる生き方を選んだ宮原さん。
その原点は、子どもの頃に行った老舗和菓子店の記憶にある。

その際は、惣菜マフィンなどカフェ限定メニューも登場する。
「母が勤めていたこともあって、よくお店に行っていたんです」
丁寧な接客、心を込めて商品を包んでもらう時間、それを大事に持ち帰る帰り道のワクワク感。
そして、家で食べたときの美味しさ。
「そんな日常の中の小さな幸せが『いいな』って、小さい頃からずっと心にあって」
何気なくも特別な幼少の記憶が気づかせてくれた。
「最近思ったんです。自分でVAKEをやってきて、『あ、私やりたかったことできてる気がする』って」
静かに戻って来てくれるお客様の姿を見て、ふと実感できた。
「この先、もしかしたらマフィンではないものを売っているかもしれない。でも、自分に嘘なく、お客様にも嘘のないものを作っていきたいというコアだけは変わりません」
自分の納得できる道が、すぐに見つかったわけではない。
それでも自分と向き合い、試行錯誤を重ねて辿り着いた「生き方」をこれからも歩み続ける。
アナタは、どう生きる?
編集後記
私にとって、ベジタリアンやヴィーガンという生き方の入口にいたのが宮原さんで良かった。
物腰が柔らかく、優しい雰囲気を纏いながらも整然とお話しいただいたことで、どこか漠然とあった「怖い」という印象はすっかりなくなった。
実は取材前にマフィンを買いに行った。
突然のことで、きっと驚かれただろう。
失礼なことをしたと思いながらも、買ってきたマフィンはあっという間に完食した。
