HUNDRED WORKERS

インタビュー

失敗は最高のネタ|「不完全」を武器に変える料理家・三井美峰の生き方

レシピ通りの「正解」を探して、最初の一歩が踏み出せないアナタへ

情報が溢れ、正解を求めすぎる今の社会において、「失敗」とは避けるべき“損”のように思えてしまう。
だから、やりたいことがあっても踏み出せない。
それでも日々の中で、ふとした瞬間にこんな不安がよぎる。

「このままでいいのだろうか」

そんな想いを抱えるアナタに、知ってほしい人がいる。
料理家の三井美峰さん(以降、三井先生)だ。

三井美峰|料理家、少人数制料理教室「houci(オウチ)」主宰
会社員時代にフードコーディネーターの資格取得。大手クッキングスタジオや調理系専門学校の講師を経て独立。
日本料理店「賛否両論」の笠原将弘氏とのタイアップレッスンや大手食品メーカの商品開発を手掛けるなど幅広く活動。現在は千葉県船橋市を拠点に発酵調味料に特化した料理教室や農業体験イベント「ベジとるとる」も展開。

「失敗とは何だろう」

そう問いかける彼女がキャリアをスタートさせた時、特別な資格も突き抜けた専門知識もなかった。
そんなところから踏み出した一歩は、17年間続く料理教室へとつながる。不完全なまま走り出し、失敗を「最高のネタ」に変えてしまう最強の生存戦略が生まれた背景には何があったのか。
「不完全」を武器にキャリアを歩んできた三井先生が見る景色とは___

「失敗はマイナスじゃない」|不完全でしなやかな三井美峰の生存戦略

「今は主に自宅で料理教室をやってますね」
そう語る三井先生の拠点は、船橋市内にある自宅兼料理教室だ。
デモンストレーション形式を基本に、「作る人は楽しく、食べる人は元気が出る」——そんな時間を届けている。

料理教室を始めて17年。
その歩みの中でも、三井先生は変化を止めない。

「去年からは発酵調味料に特化して料理教室をやっています。調味料は基本的に発酵調味料しか使わない」

昨年から、添加物不使用の調味料にこだわったレッスンへと舵を切った。

「やっぱり添加物って勝てないんですよ。特にコンソメは、何に入れてもその味になっちゃう。でも皆さん忙しいから、なかなかやめられない。だから『添加物を使いたくない人集まれ』っていう料理教室に変えてみました」

「作る人は楽しく、食べる人は元気が出る」をコンセプトに、添加物不使用の発酵調味料に特化したレッスンが大人気。

今の時代、レシピはどこにでもある。
それでも、半年かかるものを炊飯器を使って8時間程度で作るような工夫を含め、三井先生の教室には「学びに来る理由」がある。しかし、この変化は綿密に計画されたものではなかった。

「コケるかもしれないから、ダメだったらすぐ元に戻そうと思ってました」

三井先生は当時をこう振り返る。

「本当に70%くらいは失敗すると思ってました。だから、成功する確率で言ったら…30%くらいですかね」

足を止めるには十分な数字だ。それでも、やってみたいという気持ちにフタをしなかった。

「やりたいな、やってみたいな、やってみたらどうなるかなって気持ちが自分の中にずっとあるんですよね」

そして、こう続ける。

「ダメだったらまた戻ればいいって思ってて。そこにプライドはないですね。失敗したとしても、マイナスにはならないですから」

レッスン情報などはSNSにて随時発信されている。(@houci22

うまくいかないかもしれない。恥をかくかもしれない。自分にはできないかもしれない。行動を止める理由はいくらでもある。
それでも三井先生は、静かに問いかける。

「そもそも失敗って何なんですかね」

「好き」を見つけたわけじゃない。人生を動かしたのは「とりあえず」の一歩。

17年続く料理教室を主宰する三井先生だが、そのキャリアの出発点は会社員だった。
いわゆる「一般職」として、お茶汲みや電話応対といった業務を担っていた。

「さすがにこの仕事ばかりでは飽きちゃって。何か新しいことをしたいなと思ってたんです」

現状を変えたい。
けれど、何をすればいいのかは分からない。
英会話や簿記といった、いわゆる“勉強”は気が進まない。

そんな中で、ふと目に留まったのが「フードコーディネーター3級」という資格だった。「名前がカタカナで格好いいし、ここなら『自分にもできそう』って思ったんですよね」

プロのシェフでもある弟さんが営むイタリアンレストラン「L′OCEANO(@loceano_chigasaki)」にて。「先生」と呼ばれる立場になっても、学び、アップデートする姿勢は変わらない。

強い意志があったわけではない。
高い志があったわけでもない。
自分の「好き」や「武器」を見つけたという確信も、もちろんない。
ただ、その時の自分には手が届きそうだった。

「フードコーディネーター3級を持ってても、仕事にはならないんですよ。だから、一歩にもなってないんです」

「とりあえず」で飛び込んだ世界には、当時の三井先生と同じく「何者でもないし、何もできないし、どうしようって思ってる人」が沢山いた。

そんな中で、思いがけない言葉をかけられる。

「料理教室の講師、応募してみない?」

誘われるがままに応募し、合格。

「もしかしたら、これが一歩目かもしれないですね」

当時は、そんな実感なんてなかった。
それでもお茶汲みと電話取りのOLが、未経験の料理の世界に足を踏み入れた瞬間だった。

「ちょっとした留学みたいな感じでしたね。でも、この4年間は本当にいろんなことを学ばせてもらいました」

こうして、一歩ともならない行動がきっかけで入り込んだ料理の世界は、教える立場でありながらも“学ぶ立場”でもあった。

「人に教えるってことは、自分もその分学ぶじゃないですか。だから、ずっと『ラッキー』って思ってました」

「苦手なことからも刺激をもらってます」と話す三井先生は、今年から苦手な読書を始めたという。

さらに思いがけない感情にも出会った。

「“先生”って呼ばれるのが嬉しかったんですよ。自分が先生って呼ばれる人生を送れるなんて思ってなかったから」

人の期待に応えたい。
その気持ちが、自然と行動につながる。

「例えばニンジンの授業があるなら、ニンジンについて徹底的に調べ尽くすんです。どこが一番甘いのか、皮はどれくらいの薄さで剥くのか、どう保存すればいいのか」

生徒さんから聞かれるかどうかは分からない。
それでも行動した。

「調べたら自分の知識になるじゃないですか。だから、マイナスにはならないですよね」

未来の地図を持っていたわけではない。
むしろ、「結婚して、専業主婦になるんだろうな」とさえ思っていた。ただ、目の前に来た小さな波を拒まず、不完全なまま乗ってみる。
この「とりあえず」の繰り返しが、未来を形作っていったのだ。

30%の「やりたい」で動く。乗り越え、気付いた「失敗なんてない精神」

大人気講師として活動を広げていた三井先生のもとに、ある日、人生を左右するオファーが届く。
新たに開校する調理系専門学校からの、「担任教師」としてのスカウトだった。

当時、三井先生は派遣OLとして働きながら、料理教室の講師を務めるという「安定」の中にいた。
このオファーを受けることは、その安定を捨てて、未知の領域へフルタイムで飛び込むことを意味していた。

「担任を持つということは、年度途中で投げ出すことは絶対にできないじゃないですか。でも、もし自分に合わなかったらどうしようって」

当然、迷いはあった。
それでも、最後に背中を押したのは——やはりあの感覚だった。

「発酵調味料のときと同じで、自分の中に30%くらいの『やりたい』って気持ちがあったんですよね」

「下っ端っていうのが大好き」だと話す三井先生。期待値の低い未経験というポジションを逆手にキャリアを積み上げ、実績に変えてきた。

今回だって確信はない。
むしろ、うまくいかない可能性の方が高い。

それでも、笑いながら一言。

「OKしちゃったんですよ」

不完全な自分を受け入れ、また走り出した瞬間だった。
しかし、そこで待っていたのは、想像を絶するほど厳しい現実だった。

「もう、本当に大変で。毎日がめちゃくちゃしんどかったです」

これまでの料理教室には完璧なマニュアルがあった。
いわば「正解」をコピーして伝える仕事。

しかし、教育現場が求めたのは、マニュアルのない「クリエイティブな授業」だった。

責任の重さ。
学生との向き合い方。
すべてが別世界だった。

それでも三井先生が逃げ出さなかった背景には、学校の理事長の存在があった。

 「本当に、引き伸ばしてもらった感じでした。すごい勢いで」

レッスンテーブルを彩るお花も自宅で育てているものをお出ししているという。

そして、「真理」に辿り着く。

「結局、失敗なんてないんですよ。やればやっただけ、全部自分の中に積み重なって、プラスになるんです」

たとえ思い通りにいかなくても、それは失敗ではない。
新しい「経験」が「知識」となり、「不完全な自分」を磨き上げることになる。

「チャレンジってしんどいかもしれないですけど、マイナスになることはないんだから、とりあえずやってみる」

三井先生が創る、アナタのための「安心して挑戦できる場所」

三井先生は次なる一歩を踏み出している。

それは、子ども向け料理教室の講師を養成する講座の開設だ。
その背景には、教室に通う生徒たちから寄せられる、ある共通した「想い」があった。

「子育てが少し落ち着いたとき、ふと『私、このままでいいのかな』と不安を抱える方がすごく多かったんです」

独身時代を経て結婚、出産、子育て。
そして、再び手にした自分の時間に生まれる空白

けれど、今の自分に何ができるのか分からず、一歩踏み出すのが怖い。そんな想いを抱える人たちに対して、「安心して不完全なまま挑戦できる場所をつくりたい」と考えた。
その答えが、キッズレッスンだった。

キッズレッスンでは、必ず味見を行う。その裏には「正解は、レシピではなく自分が美味しいと思うこと」という三井先生のこだわりがある。

「実は、キッズレッスンは元々サブのつもりで始めたんです。でも、いざやってみると驚くほどニーズがあって。今では大人の教室と同じくらい、私の大切な柱になっています」

そんなキッズレッスンの講師は、特別な資格や華々しい経歴を必要としない。
むしろ、日々の暮らしの中で積み重ねてきた「子育ての経験」そのものが、何よりの武器になる。

「大人に料理を教えるのは少しハードルが高いかもしれない。でも、キッズレッスンは子育て経験が十分強みになるんです」

そう言い切る三井先生の言葉には、30%の可能性を信じて走り続けてきた17年間の重みが宿る。

「私は調理師免許を持っているわけでもないし、シェフの経験もない。でも、それを恥ずかしいと思ったことなんて一度もないです」

そんな三井先生のもとには、すでに問合せが届いている。

「一歩踏み出せば、キッズレッスンの講師には誰だってなれます」

農業イベント「ベジとるとる@vegetortor」のメンバーとIKEA Tokyo-Bay店で打合せ。今年は、企業とのコラボ企画も行っていくとのことで乞うご期待。

もし今、アナタが「このままでいいのだろうか」という不安の渦中にいるのなら。
どうか、完璧な自分になるまで待たないでほしい。踏み出す一歩は、思っているよりも小さくていい。
その「とりあえず」の勇気が、数年後のアナタにとって、最高の「ネタ」に変わっているはずだから。

編集後記

「奇跡なんて起きませんから」

終始笑顔で、明るくパワフルな三井先生が放ったこの言葉は、インタビューが終わったあとも、私の心に強く残っている。

17年続く料理教室を主宰しながら、農業体験イベント「ベジとるとる」を開催。
さらに、生徒さんの声からキッズレッスン講師養成講座を立ち上げるなど、その歩みを止めることはない。

ただ、どれも特別な才能や奇跡のような出来事から生まれたものではない。

「失敗なんてない」
「やればやっただけプラスになる」そんな考えのもと、小さな一歩を積み重ねてきた結果だ。
私も小さな一歩を積み重ねていこう。
アナタも一緒にいかがだろうか。

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