HUNDRED WORKERS

インタビュー

大人気間借りカフェ「とおりみち」が大切にする、好きとの丁度いい距離感

人生の道を「どれか一つ」に絞ろうとしてきたアナタへ

二兎を追う者、一兎をも得ず

このことわざを聞いたことがある人は多いだろう。
もしかすると親や先生、指導者から言われたことがあるかもしれない。

この言葉のインパクトは強い。
だから、私たちはいつの間にか「どれか一つに絞らなくてはいけない」と思い込んでしまう。

けれど、もし——二兎を追う者が、生き生きと輝いていたら。

今回話を聞いたのは、札幌市内で大人気間借りカフェとおりみちを営む店主・中村まる子さん。(以下、まる子さん)
彼女は、本業を持ちながら間借りカフェというもう一つの道も選び続けてきた。

一兎に絞らなかった結果、人生はどう動いていったのだろうか。

カフェに救われた経験をきっかけに、“提供する側”に立ったまる子さんの知られざる葛藤と「とおりみち」に込められた想いに迫る。

誰かの「とおりみち」に、そっと寄り添う間借りカフェ

札幌市内の様々な場所を借りて営業する。それが、間借りカフェ「とおりみち」のスタイルだ。

間借りカフェ・とおりみちの営業情報は、Instagram(@to_rimichi0121)をご確認ください

「基本的にスイーツは私が担当しています。旬の果物や季節に合ったものを毎回考えて提供しているんです」

そう話してくれるのは、店主のまる子さん。

「とおりみちのドリンクは、営業ごとに立つ人が変わるんです」

スイーツのお供となるコーヒーなどのドリンク類は、焙煎から提供までを一貫して行う個人の作り手が多い。
そんな背景から、とおりみちではコラボ営業を中心にしている。

「月に1〜2回の営業ですが、飲めるコーヒーも毎回変わります。来るたびに新しい出会いを楽しんでもらえたらと思っています」

札幌市内で活躍するコーヒーショップとコラボしながら、一回一回、違う時間をつくる。
その結果、とおりみちを訪れるお客さんの多くはリピーター。
一人でスイーツを2〜3個楽しむ人も少なくないという。

吹雪の日でさえ、店の外に行列ができる——いまや、札幌を代表する間借りカフェの一つとなった。
そんな「とおりみち」誕生のきっかけは、大学時代に遡る。

「自動車学校に通っていたとき、講義の合間に立ち寄ったカフェがあって。そこで飲んだコーヒーとスイーツが、本当に美味しかったんです」

その店は、POROKI COFFEE(@poroki_sato)。
現在は閉店しているが、卸売りを基本にイベントや催事などで活動を続けている。

「POROKIさんがきっかけで、カフェが好きになりました」
そして、まる子さんは“お客さん”としてカフェ巡りを始める。

とおりみちでは、米粉やきび糖を使用するなど、体に優しいスイーツ作りにこだわっている

「小さい頃から、何かを創ることが好きだったんです」と語るまる子さんは、色々なカフェを巡るうちに「このスイーツを、もっとこうしたら」「ここにカウンターがあったら」と、次第に“作り手の視点”でカフェを見るようになっていった。

そんなとき、POROKI COFFEEで間借りカフェを始めた人物と出会う。
それが、COFFEE ELM SAPPOROの熊谷さん(@coffee.elm)だった。

「その頃は、間借りカフェという言葉すら知らなくて。同世代で、コーヒーもスイーツも自分で作って提供している姿を見て、『カフェには、こういう道もあるんだ』と思ったんです」

この出会いが、彼女を“間借りカフェの世界”へと導いていく。

吹雪の中でできた行列。その光景に覚えた「焦り」のワケ

「最初は、ELMさんのお菓子担当という形で始めたんです」

「一緒にやった方がいい」という熊谷さんの後押しもあり、COFFEE ELM SAPPOROのお菓子担当として一歩目を踏み出したまる子さん。

お店の回し方なども学びながら、2021年9月に間借りカフェ「とおりみち」をスタートさせる。
夢が叶ったなっていう実感がありました」

基本的にまる子さんがコーヒーを淹れることはない。「私が淹れるより、美味しい人がいるって知ってるから」

しかし、この後に続く言葉はイメージと少し違っていた。

「でも、現場に立つと見えてくるものがあって。お客さんの入り具合、提供スピード、お会計、バッシング。全部、自分一人でやらなきゃいけないんですよね」

作り手として立ったカフェの景色は、これまで“お客さん”として見てきたものとは、まったく違っていた。

このままじゃダメだって思った記憶があります。達成感はあったけど、課題だらけのスタートでした」

夢を叶えた初営業は、少し苦い記憶として残った。それでも、「東京や世界のスイーツを参考にして、札幌にないものを届けたい」という想いで試行錯誤を重ねた。そして、少しずつ営業も軌道に乗り始めた頃のことだ。

「吹雪の中でも、お店の外に行列ができたことがあって」

間借りとは思えないほどの人気。
けれど、その光景を前に感じたのは、喜びよりも——「すごく焦りました」

「期待されているって思って。わざわざ並んでくれているのに、応えられなかったらどうしようって」

その不安は、現実になる。

「提供までにすごく時間がかかってしまって。お客さんを待たせてしまいました。口コミにも、少し辛い言葉が書かれていて」

喜んでもらいたい。その純粋な想いとは裏腹に、店の人気は当時のまる子さん一人で抱えられるキャパシティを超えていた。

「明らかに、自分の実力不足でした。好きなものばかり作っていては、お客さんを待たせてしまうって、はっきり分かって」

大好評だったお子様連れ優先カフェは、「中々カフェに行けてないんです」というママさんフォロワーからの声から生まれた企画

まる子さんは、それまで積み上げてきたお菓子作りを、一から見直すことを決めた。

「簡単ではなかったです。でも、自分が理想としているカフェをつくるために、必要なことが少しずつ見えてきて」

こうして、とおりみちが目指す道は、ゆっくりと輪郭を帯び始めていく。

間借りだから作れる。誰かの通り道に寄り添うかたち

「私がお客さんだったら、美味しいスイーツを食べながら、ゆっくり過ごしたいなって思ったんです」

思い返せば、店名につけた「とおりみち」も、そんな想いから生まれていた。

「何か予定がある中で、気軽にポッと寄り道できる。そんな癒しの空間を作りたいと思って名付けました。私の創る場所が、目的やゴールじゃなくていい。誰かの通り道に、そっと寄り添えたらいいんです」

間借りというスタイルにもこだわる。

間借りだからこそ、そこでしか味わえない癒しの空間や、ゆっくりとした時間を届けたい。月に1〜2回の営業だからこそ、一回一回の満足度を大事にしたいんです」

こうして試行錯誤を重ねたまる子さんは、ある想いに辿り着く。

売切れ続出のまる子さんのスイーツ。取り置きも承ってますので、お求めの方は事前にご確認ください

「何百回も試作してきたお菓子を『美味しかった』って言ってもらえたり、『また来ます』って言ってもらえるのが、本当に嬉しくて。私からも『こないだも来てくれましたよね』って声をかけられる関係が理想なんです」

集客や売上が、飲食業にとって重要な要素であることは分かっている。
それでも、まる子さんの一対一のコミュニケーションを大切にする軸はブレなかった。

「売上がいらないわけじゃないです。でも、それが最優先ではない。お客さん一人ひとりの顔や名前、SNSアカウントを覚えて、ちゃんと向き合える形の方が、私にとっては大事なんです」

店舗型の営業についても、はっきりとこう話す。

「考えていないです。札幌には素敵なカフェがたくさんあるので、私が同じことをやる必要はないなって。それよりも、コラボ営業で、“その日しか食べられないもの”を届けられたらと思っています」

間借りというスタイルも、コラボ営業という形も、すべては「誰かの通り道に、癒しを届けたい」という一つの想いから選び取ってきたものだった。

そしてその想いは、無理なく、いまも続いている。

それぞれの人生にある、それぞれのとおりみち

カフェと出会い、間借りという形で作り手になる。
人気が出ても、うまくいかない時があっても、より良い空間を届けるために、前を向き続けてきた。
そんな姿からは想像もつかないが、学生時代のまる子さんはどん底だったという。

「私、学生時代うまくいってなくて。『私には何の価値もない』『何もできない』って思っていた時期がありました」

大学時代の挫折。人生が終わったと思うほどの暗黒期。

「多分、あのまま学生続けてたら本当に人生終わってましたね

そんな彼女を救ったのも、やはりカフェだった。

ドーナツ作りにハマったまる子さんが、旦那さんと共に営業する「wani coffee&donut」も2025年秋よりスタート(@wani_sapporo)

「それはきっと、人生にとって必要な時間なんだよ」

間借りを通じて出会ったmemento moriさん(@mementomori_cafe)から言われたこの一言で「『あ、私ってちゃんと意味ある所に立っているんだ』って思えたんです」と語るまる子さん。

「お客さんと会話する中でも、救われたなっていうことが何度もあったので。皆さんのおかげで大学生活を乗り越えられたかなって。これも全て、間借りをしてたおかげだなって思いますね」

必要な出会いは、全てカフェにあった。
そして、大好きなカフェに作り手として真摯に向き合い続けたことで新たな景色が見えた。

「色んな人と出会って、経験して、救われることが沢山あった人生なので。自分が働く入口って一つに絞らなくていいんだなっていうマインドになっていきましたね」

まる子さんは現在も本業を持ちながら営業を続けている。その在り方は、これからも変わらない。

「もう一つの仕事も嫌いじゃないんですよ。喜びや成長をすごく感じられるし。だから、『好き』を何個か持っておくことでモチベーションになったり、生きていくためのプラスのパワーがもらえたりするんですよね」

どれか一つを選ばなかったからこそ、好きなものと丁度いい距離感で向き合えた。

「身体的疲労はやっぱり大きいんですけど、間借りがモチベーションになったりして頑張れるんですよね。カフェが自己肯定感の上がる場所なので。だから、本業もより頑張れるんです」

誰かの人生の通り道に、そっと寄り添いたい。その想いを形にするために、二つの仕事があった。

アナタの想いを形にするための道は、いくつあるのだろうか。

編集後記

このインタビューを受けて下さった、まる子さんは妊娠5ヶ月目だった。
「来年は、子どもを背負いながら営業したいなって思ってます」と語るとおりみちは、お花屋さんとのコラボ営業など様々なイベントを企画しているとのこと。今後の活動も楽しみだ。

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