役目を終えた古材で組み上げるブリコラージュ。「一点物のランプ」が灯す蕾のあかり

目次

「本当の自分って何なんだろう」「今の生き方でいいのかな」と、自分の在り方や立ち位置を見失いそうになっているアナタへ

効率、コスパ、生産性…。

情報が溢れる現代社会で「大切にすべき」とされる価値観はたくさんある
どの価値観にも、一定の根拠や納得感を感じる。

しかし、どれが1番大切なんだろう。

そんなことを考えていると、本当の自分が見えなくなることはないだろうか。
蕾のあかり・高橋さんも、そんな一人だ。

高橋 歩|ブリコラージュ職人(蕾のあかり)
北海道釧路市出身。会社員として働く傍ら、2018年より自宅の古民家リノベーションをきっかけにモノづくりを開始。

「日常に灯る小さな灯」をコンセプトに、役目を終えた部品や古材を使用したブリコラージュのランプを手掛ける。

効率と非効率の狭間で、本当の自分がわからなくなることがあると言う。

しかし一方では、「そんな今が1番楽しいのかもしれない」とも語る。

その言葉の裏には、役割を終えた廃材に新たな生命を吹き込む「ブリコラージュ」の哲学と、5Wの小さな灯りに込められた想いがあった。

古民家リノベーションから生まれた、小さな灯りのプロトタイプ

みなさんは「ブリコラージュ」という言葉をご存知だろうか。
本来の目的とは異なる道具や古材を用いて新しいモノを作り上げる手仕事を意味する言葉だ。
フランスの人類学者クロード・レヴィ=ストロースが著書『野生の思考』で提示した概念として知られている。

高橋さんはこの言葉に出会う前から、会社員として働く傍ら、ブリコラージュの創作活動を始めていた。
その始まりは、決して「作家になろう」という大層な決意からではなかった。

「2018年、もう8年前ですかね。 古民家を購入しまして、半年以上かけて夫婦でリノベーションしたんです」

「蕾のあかり」は札幌や石狩を中心に展開中。イベントへの出店も随時行っているので、詳細は蕾のあかり公式Instagramをチェック。

夫婦揃ってアンティークや古いものが好きだったという高橋さん。

「新築の綺麗な家ではなくて、古民家に住みたい」という思いから、自分たちで理想の空間を作ろうと踏み出した。
「自分たちの好きな雰囲気にして、アンティークの家具が似合うような家を作りたかったんです」

ホームセンターへ通い資材を調達しながら、時間と労力をかけて理想の住まいへと一歩ずつ近づけていった。
しかし、どうしても納得がいかない空間があった。
それが「照明」だった。

「どうも市販のものでイメージに合うものがなかったんです。いいなと思っても、受注生産で半年待ちだったり」

思い描く空間にぴったりの灯りが見つからない中、妻が「こんな照明にしたい」と写真を見せてくれた。
それを見た高橋さんは、思わずこう口にした。

「これなら、作れるよ」

子どもの頃から工作が好きだった高橋さん。
本業の中でも金属を削ったり加工したりするノウハウを持っていた。

「銅とか真鍮のパイプを使って、中に電球のソケットを入れる構造だったので『作れるじゃん』って当時の僕は思ったんです」

アンティークの椅子やスツールなどを購入していたが、整った内装では「やっぱり合わないんですよね。
古びたものがちょっと浮いちゃうというか」。そんな違和感と偏愛が理想の空間を作る第一歩となる。

試行錯誤の末に作り上げた照明は、まさに妻が思い描いた通りの仕上がりになった。
こうして完成した自作の灯りは、リノベーションした古民家で暮らす夫婦の生活を明るく照らし始める。

しかし、高橋さんが部屋を煌々と照らす照明を作ったのは、後にも先にもこの時だけだった。
現在の「蕾のあかり」が作っているのは、5Wというごく小さなあかりを灯すランプだ。

なぜ、これほどの小さな灯りを作るようになったのか。
そこには、「家族が一番大切だし、家族のために生きていきたい」と真っ直ぐに語る高橋さんの温かな家族の物語があった。

ブリコラージュ職人としての確かな一歩は、家族を灯す「授乳ランプ」

蕾のあかりが作るランプの大半は、5Wというごく小さな灯りだ。
「100V電源で使うものにしては、すごく小さな灯りです。昔の蛍光灯のヒモを引いた時に残る、豆電球くらいの」
そんな小さな灯りのランプを作るようになったきっかけは、長男の誕生だった。

一からデザインを考えて形にすることもあれば、部品から着想を得て制作に入ることもあるという。

「息子がまだ赤ちゃんだった頃、夜中に何度も授乳が必要で妻が起きるんですよ。その時、部屋の電気をつけると眩しすぎる。かといって、暗いままだと何も見えない。そこで妻が『適度な灯りが欲しい』って言ったことがきっかけで、5Wのランプを作ったんです」

「ちょっと格好悪いんですけど、我が家ではそれを『授乳ランプ』って呼んでるんです」

5Wの灯りは、実用性という意味では頼りないかもしれない。
しかし、新たに生まれた命と、その命に寄り添い育てる妻を守るために灯された優しい光だった。

家族のために作った授乳ランプ。
この小さな灯りがきっかけとなり、物語は思いがけない方向へと動き出す。

「デザイナーの友人がうちに遊びにきた時に、この授乳ランプを見つけて気に入ってくれたんです。そして、『もっと色んなところに発信していくべきだ』って言ってくれたんです」

その友人が、あるアンティーク雑貨屋を紹介してくれた。

「店主の方も気に入ってくださって、お店に置いてもらうことになったんです」

家族のために始めたモノづくりが、制作へと変わった瞬間だった。

そのお店の名前は、「古物と手仕事 ATELIER bricolage(アトリエ ブリコラージュ)」

「最初は恐縮しきりでしたね。自分の作ったものが、本当にいいんだろうかっていう気持ちが強くて」
「特に新しいものを作った時は怖かったですね。前回受け入れられたものと同じように、今回も受け入れてもらえるかわからなかったので」

そんな不安を抱えながら手を動かす高橋さんを支えたのは、 ATELIER bricolageの店主の言葉だった。

『どんなものでも出来上がったら教えてほしい』って言ってくださって。本当に温かくて、人間が大きい方なんです」

今では、札幌市西区にある「コーヒーと雑貨 SilkeTree」の店内でも採用され、イベント出店も果たすなど、高橋さんの作品は静かに広がっている。

江戸時代の古材を用いた一点物のランプ。海を渡ったカナダ・アルバータ州エドモントンの地で静かに時を刻む、思い出深い一台。

ホームセンターに行けば、それなりの材料が簡単に手に入る時代。
それでも高橋さんは、ブリコラージュという手仕事にこだわる。

「元々古いものが好きっていうところがあったんですけど、役目を終えたり不要になったものとかを使って、新たなものを作るってことが単純に格好いいなって思うんです」

家族を守るために灯された小さな光は、温かな人との繋がりを生んだ。
制作を始めて約4年。
作ったランプは、100台を超えた。

「今が一番楽しいかもしれない」|効率と非効率の狭間で見つけた、ありのままの自分

会社員と二児の父という顔を持つ高橋さんの制作活動の大半は、子ども達が寝静まった後に始まる。

「作っているときはすごく集中して、入り込んでいると思いますね」

気付けば、ひとつの部品を2時間もジッと眺めていることもあるという。

「ガラクタの中に埋もれていた部品を見て、『そもそもこれは何だったんだろう』って想いを巡らせることもあるんです」

部品との出会いは貴重だ。特にランプを支える土台の素材には一定の重量が求められる。立ち寄った古物店で手にしたものが、思いがけず作品のラストピースになることも。

「サイズを測ってみると、12.7ミリだったりする。1インチって25.4ミリだから、12.7ミリっていう数字は2分の1インチだってことが分かるんです。そこから『これはインチ規格の部品だから、アメリカ製のものかな』なんて妄想したりしてるんです」

高橋さんのブリコラージュは、こうした「想像する時間」から始まっている。

「部品についている傷1つとっても、使われてきた背景や流れてきた時間がある。そのストーリーを想像しながら部品を組み合わせていって、また別の人の記憶や生活空間の中で時を刻んでほしい。そんな気持ちでやってるんです」

しかし、こうした非効率な手仕事が頭を悩ませる瞬間もある。

「会社では、生産性を上げて業績を改善する取り組みをしています。でも反面、自分の制作活動は非効率の極みで」

効率や成果を求められる仕事をする一方、2時間部品を見つめる非効率な制作活動。
ふたつの世界を行き来する日常の中で、時に「本来の自分」が見えなくなることがあると高橋さんは明かす。

「会社のストレスチェックで『あなたは職場でありのままの自分でいることができていますか』という設問があって。そんな深く考えるようなことじゃないと思うんですけど」

毎年、その設問を前にして手が止まる。

「いつも考え込んでしまうんです。『ありのままの自分って何だろう』って」

役目を終えた部品で作る作品の全てが一点物。その一つ一つが、今も日本や世界のどこかで優しい光を灯している。

答えの出ない問いに思考を巡らせながら、自身の人生を振り返る中で、徐々に高橋さんの表情が柔らかく緩んでいった。

「妻とよく話すんです。いつか妻が古民家カフェでコーヒーとかお菓子を出して、その一角で蕾のあかりのランプを並べられたら良いよねって」

大切な家族との出会い、その家族のことを想って作ったランプは、いまや多くの人に愛されている。
効率と非効率というふたつの世界を行き来しながらも、懸命に歩んできた日々を振り返り、自然と言葉が溢れ出た。

「今が一番楽しいかもしれないですよね」

性質の異なる世界を行き来する日々で見つけた「ありのままの自分」

目標や成果に向かって奔走し、任された役割を果たしていく時間。
そこにあるやりがいや達成感を感じる自分も、紛れもない本当の自分だろう。
大切な家族の声に耳を傾け、子ども達が寝静まった後に部品を眺めながら手を動かす非効率な時間。

そこで喜びを感じる自分もまた、偽りのない自分自身だろう。
ふたつの居場所を行き来する日々の中で、「どちらが本当の自分なのか」と分からなくなることもあるかもしれない。

イベントを中心に出展しているが、コーヒーと雑貨 SilkTreeでは店内照明として使用されている。実物をご覧になりたい方はぜひ。

しかし、効率的であろうと非効率であろうと、与えられた役割や大切な存在に対して愚直に向き合い、目の前の仕事や手仕事に真摯であり続ける。
この懸命な営みの中にいる姿こそが、高橋さんにとっての「ありのままの自分」だった。

多様な価値観や「こうあるべき」という情報が溢れる現代社会。
自分の在り方や生き方に迷いそうになった時は、効率や生産性だけでは測ることのできない「自分の心が動くもの」を大切にすることが大事なのかもしれない。

性質の異なる世界を行き来しているように見えても、その世界の中で懸命に灯す光こそ「ありのままの自分」の蕾なのだから。

編集後記

随所で家族への想いを語る高橋さんのお話を伺った後、改めて作品に目を向けると素敵なだけでなく、その奥にある優しさや温かみがじんわりと伝わってきた。
そんな高橋さんだが、「10代の頃の自分は今と少し違っていた」と当時を振り返る。
地元のご友人たちも「変わった」と話すほど。
その背景には、様々な人との素敵な出会いがあるのだが__残念ながら今回はオフレコとさせて頂く。

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この記事を書いた人

\元サラリーマン教師/
▶︎多様な分野で活躍する人=HUNDRED WORKERSへインタビュー
▶︎学校では学べないマインドセット・スキルセットをお届け

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