自分の人生に、”羅針盤”はあるか?
先が読めない、不確実性の高い時代。正解がない選択を迫られ、自分の決断に迷いが生じることは少なくありません。そんな時にこそ必要なのが、“人生の羅針盤”です。
それは、「自分はどんな価値を社会にもたらしたいのか」「なぜ、その価値を大切にするのか」そして、「どんな判断基準で生きていきたいのか」という問いに、しっかりと言葉で答えられる状態。その答えがあれば、行動に一貫性が生まれ、選択にも迷いがなくなります。結果として、自分だけの哲学が形成され、気づけば“らしさ”に溢れたポジショニングができている。つまり、自分をブレずに表現するための「セルフブランディングの核」になるのです。
“会社のブランド”から、“自分のブランド”へ
かつては、大学を出て1社に40年勤め上げることが「安定」とされていました。しかし今は、副業や兼業、リスキリングを通じて、自分のスキルや価値を磨き続ける働き方が主流になりつつあります。1つの肩書に依存せず、社会の中で選ばれ続ける存在になることが、個人にとっての生存戦略になっているのです。
このような時代には、企業のブランドに頼るのではなく、自分自身をブランディングしていく力が必要です。では、そのブランディングの「軸」はどこにあるのか? その答えの1つが、「MVV(Mission・Vision・Values)」です。
MVVとは何か?
MVVとは、以下の3つの要素で構成される、自分の生き方の設計図です。
- Mission(使命):自分が社会に対して果たしたい役割、存在意義
- Vision(未来像):どんな社会や状態を目指すのか、理想の世界観
- Values(価値観):何を大切にし、どんな判断基準で行動するか
これらを明確にすることで、日々の選択や行動に一貫性が生まれ、自分の生き方に納得感と説得力が備わります。まさに“人生の羅針盤”として機能するのが、このMVVです。
企業MVV
企業が策定するMVVとして有名なものを紹介します。
Apple
- Mission:「最高のユーザー体験を届ける」
- Vision:「創造性を解き放ち、より良い世界を創る」
- Values:「革新・シンプル・品質・ユーザー中心」
スターバックス
- Mission:「人々の心を豊かで活力あるものにする」
- Vision:「世界で最も知られ、愛されるコーヒーブランド」
- Values:「心からのつながり、誰もが歓迎される場」
こうしたMVVが企業活動の軸となり、ブランドとしての魅力や信頼を生み出しています。
そして今、その考え方は個人にも広がりつつあります。個人がMVVを持つことで、自分の生き方やキャリアに「軸」が生まれ、他者から信頼され、選ばれる存在になっていく。特に、就活や転職、独立といった節目において、自分らしい判断をするための根拠として、個人MVVは強い力を発揮します。
個人MVV
● スティーブ・ジョブズ(Apple創業者)
- Mission:「テクノロジーと芸術の交差点で、人々の生活を変える」
- Vision:「すべての人が創造性を発揮できる世界」
- Values:「シンプルさ・美・革新・直感を信じる」
ジョブズは、自身の哲学を製品やプレゼン、会社経営にまで徹底的に反映させ、一貫性のあるメッセージと行動によって唯一無二のブランドを築き上げました。
● 坂本龍馬(幕末の志士)
- Mission:「時代の壁を壊し、新たな日本を創る」
- Vision:「身分や藩を超えて、国民が力を合わせられる近代国家の実現」
- Values:「自由・調和・未来志向・自己責任」

龍馬は土佐藩を脱藩し、薩長同盟を成し遂げ、日本の新たな道筋を開いたビジョナリーリーダー。既存の枠に縛られず、自分の理想を貫いたMVVの体現者ともいえます。
● マララ・ユスフザイ(教育活動家・ノーベル平和賞受賞者)
- Mission:「すべての子どもに教育を」
- Vision:「誰ひとり取り残されない、学びのある世界」
- Values:「勇気・平等・忍耐・対話」

マララは女性教育の権利を訴え、命の危機に晒されながらも信念を貫いた活動家。彼女の言動やスピーチ、国際的なアクションは、MVVに沿って明確な一貫性と説得力を持っています。
有名無名に限らず、自分のMVVを明確にし、それに沿って行動している人は、自分らしい特徴的なポジションを築き、社会の中で確かな影響力を持ち活躍しています。
自分自身のMVVをどう作るか?
MVVを言語化することは、自分の価値観や未来への願いを明確にする作業です。しかし、いきなりMission・Vision・Valuesを考えようとしても、うまく言葉にならないことも多いはず。ここでは、MVVを作るためのステップを3段階に分けて紹介します。
STEP1|自己理解を深める
まずは、自分の内面を掘り下げるところから始めます。過去の経験を振り返り、「どんな時に充実感を感じたか」「どんなことに怒りや違和感を持ったか」を書き出したり、「これは譲れない」と思える価値観をリストアップしてみるのもいいでしょう。また、ツールを使ったり、プロファイリング診断を通じて自己の内面を探ることもおすすめです。
- ストレングスファインダーなどのツールを使って自分の強みを把握する

- マクレランドの欲求理論を使って、自分の根源的なモチベーションを可視化する

STEP2|3つの問いに答える
自分を理解したら、次の3つの問いに答える形でMVVを組み立ててみましょう:
- Mission(使命):あなたが社会に対して果たしたい役割や意味は?
- Vision(未来像):あなたが目指したい未来の姿とは?
- Values(価値観):あなたが大切にしている行動原理・信念は?
一言一句、完璧な言葉にしようとする必要はありません。まずは箇条書きでもいいので、自分なりの言葉で答えてみましょう。
STEP3|統合して、言葉にする
最後に、STEP2で出した答えをまとめて、シンプルな言葉として整理してみます。
例として下記をご参考下さい。
- Mission:「誰もが自分の可能性を信じられる社会をつくる」
- Vision:「挑戦することが当たり前になる世の中」
- Values:「誠実・対話・創造性・楽しむ心」
言葉はあとからいくらでも磨いていけます。最初は自分だけがわかる“原型”でOKです。
まとめ|“あなたらしさ”の原点がMVVになる
MVVとは、Mission・Vision・Valuesという3つの要素で自分の生き方を明文化したもの。今の時代において、それは単なる概念ではなく、選ばれる個人として社会の中で生きるための“生存戦略”です。
✔︎ 自分の価値や目指す未来を言葉にすることは、行動の一貫性を生み、他者との信頼を築き、結果的に“あなたというブランド”を形づくっていきます。
✔︎ そしてその軸があることで、不確実性の高い社会の中でも、自分の選択に納得できるようになります。
まずは、自分自身と向き合い、小さな気づきから始めてみてください。MVVづくりは、あなた自身の価値を掘り起こす旅でもあります。、何か特別な人だけが持つものではなく、“自分らしく生きたい”と願うすべての人にとっての指針となるものです。自分の内面と対話しながら、自分だけの羅針盤をつくっていきましょう。