「大切にしている価値観はなんですか?」
そう聞かれたとき、あなたは何と答えるでしょうか。
これまでの経験や学びの中で、きっと“あなたらしい答え”を持っているはずです。
「家族を大切にしたい」「人の役に立ちたい」「常に挑戦を忘れたくない」——。
それは、あなたが理性や思考を使って積み上げてきた、誇れる価値観です。
でも、もしその価値観と、あなたの“本当の行動の動機”がまったく別のところにあるとしたら——?
私たちはふだん、価値観に基づいた行動をとっているように見えます。しかし、プレッシャーや混乱といった極度のストレスにさらされたとき、その行動を支配するのは、もっと根っこの部分にある“動機”なのです。
しかもその動機は、生まれてから5歳までのあいだにほぼ決まるとも言われています。
「自分はこういう価値観で生きている」と思っていても、実際に自分を動かしているのは“まったく別のエンジン”かもしれない。
この診断では、“自分を動かす本当の理由”=動機を探ります。
動機を“見える化”する|マクレランドの欲求理論とは?
私たちの行動の“奥底”には、理性や価値観を超えた、もっと根源的なエネルギーが流れています。
それが「動機」です。
では、その“動機”をどのように探ればいいのでしょうか?
そこで活用するのが、アメリカの心理学者デイビッド・マクレランドによって提唱された、「欲求理論(Motivational Needs Theory)」です。
マクレランドの欲求理論では、人の行動の源にある「動機」は、主に以下の3種類に分類されます。それぞれの動機が強い人は、ものごとの捉え方や判断基準、他人との関わり方に特徴が現れます。
1. 達成欲求(Achievement)
「もっと良くしたい」「結果を出して認められたい」「自分の力を証明したい」
達成欲求が強い人は、「自らに高い目標を課し、それを乗り越えること」に喜びを感じるタイプです。
他人からの評価よりも、「自分で納得できるかどうか」を重視する傾向があります。
こんな行動パターンが見られるかもしれません。
- ゴールや明確な期限があると燃える
- チャレンジングな課題にやる気が出る
- 「もっと上手くできる方法」を常に模索してしまう
- 結果が曖昧な仕事はモチベーションが上がらない
“自分の成長実感”や“達成感”が原動力になるタイプで、
継続的な成長を感じられる環境で最も力を発揮します。
そして、このタイプの人たちは、往々にして学校教育や受験システムと相性が良いと言われます。
なぜなら、「点数」「偏差値」「順位」といった明確な目標や評価指標が設定されているからです。
「勉強が得意だった人」が学校や教育の“仕組み”を作ったから、それにうまく乗れなかった人は、「自分には何かが足りない」と感じてしまうことがあるのかもしれません。
2. 親和欲求(Affiliation)
「人とつながっていたい」「好かれたい」「孤立するのがつらい」
親和欲求が強い人は、「人との関係性」こそが行動のモチベーションの中心にあります。
特に「仲間に受け入れられている」「共感されている」と感じられると、安心して行動できます。
こんな特徴が見られることがあります。
- チームワークや協力がある環境が好き
- 対立や争いはできるだけ避けたい
- 「相手がどう思っているか」がとても気になる
- 他人との“感情のつながり”を大事にする
親和欲求タイプは、喧嘩や摩擦を避けたいという気持ちが強く、衝突を回避する努力を自然に行う傾向があります。
そのため、人の役に立つことに喜びを感じやすく、相手のために動ける誠実さを持っています。
また、社交性や共感力が高いため、
チームの雰囲気づくりや来客対応・接客などの“対人業務”を得意とする人も多いです。
一方で、こんな場面には要注意。
- リストラや人間関係のトラブルなど、“関係が壊れる”状況
- 意見がぶつかって前に進めないような“対立構造”
- 誰かが否定されている場に居合わせる
こうした環境下では、強いストレスを感じてしまい、自分の力を発揮しきれないこともあります。
結果として「なんとなく中途半端に終わってしまう」ような選択をしてしまうことも。
そのため、親和欲求が強い人ほど、安心して本音を言える人間関係や、信頼できるチーム環境が非常に重要になります。無理に自分を抑え続けるのではなく、適切に自己主張できる“対話力”を育むことが、力を最大限に引き出すカギになります。
3. 権力欲求(Power)
「影響力を持ちたい」「人を動かしたい」「注目されたい」
権力欲求が強い人は、「自分の言葉や行動が、他者にどのような影響を与えるか」に強く関心を持つタイプです。
特に、自分がチームや組織に対して影響を及ぼせていると実感できると、モチベーションが高まります。
こんな傾向が見られるかもしれません。
- 人前で話すことや、意思決定することにやりがいを感じる
- 誰が発言力を持っているのか、自然と把握してしまう
- 自分の意見が通るとテンションが上がる
- リーダーシップや主導権に惹かれる
このタイプは、“他者への影響力を行使したい”という気持ちが強く、指示する側よりも、指示される側にいたいと感じやすい傾向があります。競争を好み、責任ある立場をポジティブに捉えられるのも特徴です。
また、地位・肩書・役職といった「立場」に意味を見出す場面も多く、自分の影響力がどれだけ大きな範囲に届いているかを重要視します。
そのため、以下のような場面で力を発揮しやすいです。
- 大きなチームをまとめるリーダー役
- 複数人のマネジメント業務(経営・企画・人材育成)
- 組織の方針や流れに影響を与えるポジション
一方で、自分の意見や方針にこだわりすぎてしまうと、周囲との摩擦や、“支配的”“自己中心的”と捉えられるリスクもあります。
重要なのは、「誰のためにその力を使うのか」という視点を持つこと。“自分のため”から“社会のため”“チームのため”に目的がシフトしたとき、このタイプは極めて強力な推進力とリーダーシップを発揮することができます。
補足:回避動機(Avoidance)
マクレランドの欲求理論は本来、達成・親和・権力の3つの動機を中心に構成されています。しかし、実際の行動にはもうひとつ、「回避動機」と呼ばれる心理が影響していることがあります。
「目立ちたくない」
「失敗したくない」
「人に迷惑をかけたくない」
こうした気持ちに心当たりがある人は、何かを“得たい”というより、“避けたい”という動機に突き動かされているかもしれません。
回避動機が強い人には、こんな傾向が見られることがあります。
- 評価されたり、人前で目立つことが苦手
- ミスやトラブルを避けるために慎重になりすぎる
- あえて「中間のポジション」に落ち着こうとする
- 「何もしないこと」が一番安心に感じることがある
このような行動は、一見「やる気がない」「消極的」に見えるかもしれませんが、“リスクを避ける”という本能的な動機が深く関わっていることもあります。今回の診断では、回避動機を数値化することはできませんが、もし3つのどれにも強く共感できなかった場合は、「もしかすると、自分は“避けること”に価値を置いて行動しているのかも?」と考えてみると、新たな気づきにつながるかもしれません。
著名人プロファイリング
達成欲求タイプ:イチロー(元プロ野球選手)
イチローはまさに、「自分自身との戦いを生きる人」
誰に何を言われようと、「昨日の自分より上手くなっていたい」という思考が根本にあります。
- 日々のルーティンを徹底し、精度を磨き続ける姿勢
- 成績や賞よりも、自分の納得に重きを置いたストイックな行動
- 他人に勝つより「自分に負けない」ことを重視
→ 「成果」より「達成」へのこだわりが強い典型的な達成欲求タイプ。
親和欲求タイプ:オードリー・タン(台湾デジタル担当大臣)
オードリー・タンは、多様性や共感をベースに社会をつくろうとする姿勢で世界的に評価されています。その根っこには、「人とつながること」「分断を埋めること」への深い欲求があります。
- 「みんなが使いやすい技術を」「対話を断絶させない社会へ」
- 攻撃的な議論ではなく、全員の理解を目指す透明性重視の政策スタイル
- 自分が注目されるより、関係性の中で力を発揮する姿勢
→ つながりを大切にし、共感を基盤に社会と向き合う親和欲求タイプ。
権力欲求タイプ:スティーブ・ジョブズ(Apple創業者)
スティーブ・ジョブズは、まさに**「影響力を行使すること」を使命にしていた人物。**
彼の行動の裏には常に「世界を変える」「人の心を動かす」意志がありました。
- 自らのビジョンに従って強烈にリードし、仲間を巻き込んでいく力
- 製品やプレゼンすべてに「人を惹きつける仕掛け」を織り込む
- 優れたものを生み出すことは手段であり、「人を動かす」が本質
→ “世界に影響を与えること”が最大のモチベーションとなる、権力欲求タイプ。
さて、あなたの“動機”は、誰に近いと感じましたか?
あなたも診断を進めながら、価値観ではない、あなたの本当の動機を知りましょう。
あなたの動機タイプをチェック!|30の質問でプロファイリング診断

この診断は、アメリカの心理学者デイビッド・マクレランド(David McClelland)が提唱した「欲求理論(Motivational Needs Theory)」に基づいて作成されたものです。
マクレランドは、人の行動は「成果(達成)」「親和(つながり)」「権力(影響力)」という3つの根源的な欲求によって動かされていると考えました。この理論はビジネスや教育、心理学の現場で広く応用されており、人の行動パターンやモチベーションの源泉を読み解く手がかりとして、非常に有効とされています。
今回は、マクレランドの原著に基づいた30の質問に答えることで、あなたを“突き動かしている本当の理由”=動機をプロファイリングしていきます。
プロファイリングチェックリスト
上記の英文リストを日本語訳した30の質問に対して、直感的に「当てはまる」か「当てはまらないか」をチェックしてください。特に深く考え込む必要はありません。第一印象や直感でOKです!
- 人から悩みを相談されることが多い。
- 他人から自分の意見に同意を得ることが得意。
- 自分に対して、達成が難しいような高い目標を設定することがよくある。
- やるからには仕事は徹底的にやるべきだと思う。
- 自信を持って人に指示を出すことができる。
- 役職名には意味と重みがあると感じる。
- 人に指示を出さなければならない状況では、少し気まずく感じる。
- 家族や友人と会話したり、一緒に時間を過ごすことが多い。
- 議論になった時、相手を自分の意見に引き込めることが多い。
- 体調が悪くても、大事なことであれば仕事を続ける。
- 組織や集団をコントロールできる立場であると、やりがいを感じる
- 挑戦的な仕事が好きだ
- 他人と感情や体験などを共有できる趣味を選ぶことが多い。
- もっと効率的に、もっと良いやり方がないかを常に探している。
- 世の中に広く知られるような機会は、自分にとって大切だ。
- 対立を含むような状況にいると、不安を感じる。
- 完璧主義なところがあり、物事はきっちり仕上げたい。
- 昼食は1人よりも、誰かと一緒に食べるほうが好きだ。
- 列に並んでいるとき、他人に前に割り込ませない。
- レストランでサービスが悪くても、文句を言うのは気が引ける。
- 自分のパフォーマンスについて、フィードバックを得ることは大事だと思う。
- 生活のためでなくても、自分は一生懸命働くと思う。
- 自分から注目を集めようとすることはほとんどない。
- 他人から好かれることは、自分にとってとても重要だ。
- 新しい同僚や後輩に自然とアドバイスしたり指導することが多い。
- 自分の専門分野で1番になるまで満足できない。
- 他人にとって印象的なモノ(車、家など)を持つことは自分にとって重要だ。
- 他人に指示を出す責任を持つのは、あまり好きではない。
- 競争することが好きだ。
- 他人に影響を与えるチャンスがあると、ワクワクする。
スコアの数え方
チェックリストの30問は、マクレランドの理論に基づき、以下のように分類されています。
動機タイプ | 質問番号 |
---|---|
達成欲求(Achievement) | 3, 4, 10, 12, 14, 17, 21, 22, 26, 29 |
親和欲求(Affiliation) | 1, 7, 8, 13, 16, 18, 20, 23, 24, 28 |
権力欲求(Power) | 2, 5, 6, 9, 11, 15, 19, 25, 27, 30 |
上記の分類に従って、それぞれの動機タイプに該当する設問に「あてはまる」と答えた数をカウントしてください。
- 最も多く「あてはまる」と答えた動機タイプが、あなたをもっとも強く突き動かしている“主要な動機”です。
- 同数またはバランス型になった場合は、複数の動機があなたの行動に影響を与えている可能性があります。
【判断のヒント】
- 10点満点中 8〜10点 → 非常に強く影響している
- 5〜7点 → やや影響している
- 4点以下 → あまり影響していない傾向
まとめ
日本では、圧倒的な実績を残してきた人が、自然とマネジメント層や社長など「権限ある立場」に据えられることが多くあります。
しかし、ここで見落とされがちなのが、「実績の裏にある動機」と「役職に必要な動機」が必ずしも一致しないという点です。
たとえば──
- 達成欲求が強い人は、自分のゴールを達成することには全力を注ぎます。
しかし、チームを束ねたり、他者をマネジメントすることには関心が薄いこともあります。 - 一方、権力欲求が強い人は、人を動かしたり、大きな組織に影響を与えることにモチベーションを感じるため、
経営やマネジメントに強い適性を持つ傾向があります。
実績のある人が昇進し、その後「急にマネジメントが苦手で苦しむ」──
そんなケースは、この“動機のミスマッチ”から生まれているのかもしれません。
このように、動機を理解することは、個人の働き方だけでなく、組織設計や人事判断においても非常に重要な視点になり得ます。
この診断はあくまで「自分の傾向を知るための簡易ツール」です。正解・不正解はありません。
大切なのは、「あ、だから自分はこういう行動をとるんだな」と気づきが生まれることです。
どうぞご自身の自己理解や周囲の方への他者理解などにご利用ください。